宮田裕章対談「日本流のデータ駆動型社会を実現するには『映像データ』がカギとなる」

「見える」未来を対談する

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Writer:山内宏泰

2020/10/21

宮田裕章対談「日本流のデータ駆動型社会を実現するには『映像データ』がカギとなる」

佐渡島隆平 × 宮田裕章 日本流のデータ駆動型社会を実現するには、「映像データ」がカギとなる

医療の分野でデータを活用し次世代ヘルスケア改革に取り組む宮田裕章さん。今回は宮田さんの研究所におじゃまし、佐渡島と宮田さんそれぞれが描く「データ駆動型社会」を語ります。

宮田裕章さん
2003年3月東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。2015年5月より慶応義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。
医療分野でビッグデータを活用し、データ駆動型社会による次世代ヘルスケア改革に取り組む。

佐渡島
データ駆動型社会への道筋を理論化し、社会の根幹で実装するところにまで携わっていらっしゃるのが宮田さんです。
近々では、新型コロナウイルス対策のため厚生労働省がLINEユーザーに向けて行なった全国健康調査を主導なさって、大きな反響を呼びました。

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宮田
ありがとうございます。セーフィーの活動も、クラウドカメラをあらゆるところに浸透させることで、データ駆動型社会をどんどん現実化していくものだと、私は捉えていますが。

佐渡島
はい、根本のねらいはそこにあります。
創業時から、データの集まるプラットフォームづくりを目指して、事業を進めてきました。

いま、さまざまな現場にクラウドカメラを設置いただいていますが、導入のきっかけは防犯・警備などが多いです。
そこでごく簡単に使えることをわかっていただけると、さらに「この映像データを業務改善に活かせないか」「マーケティングにも応用したい」という声が出てきます。
店舗ならサービス効率化のためスタッフ動線を見直したり、最も売れるディスプレイ方法を割り出してその状態を維持するよう務めたりといったことにつなげられます。
建設業では、各現場の進捗状況を一元的に管理するのに使っていただいています。

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どんな服を着て来店した人が、どんな商品を買い求めるかといった、マーケティングにも大いに活用できますね。
最近は顔認証技術が格段に進歩しましたから、企業や店舗の勤怠管理も映像データによってすることができるようになってきました。
それら活用方法は基本的に、ユーザーの方々のアイデアや発案をかたちにしていって実現したもの。
我々がメニューを用意してそこから選んでもらうようでは、ユーザーのニーズに完全に合致することになりませんから。

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宮田
医療や介護の現場でも、映像データを活用できる場面はたくさんありますね。
すでに導入が始まっている部分もありますが、もっと全面的に活用する余地がたっぷりとある。

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考えられるのは、傷病の予防への活用です。
たとえば高齢になって自力で歩けなくなったり、または認知症を発症するケース。
それらは重症や中等度以上に進行すると、治して元の状態へ戻ることはなかなか難しい。
症状が重篤になる前に気づき、自力で改善するのが望ましいわけで、できるかぎりの予防に努めたいところです。

そのための重要な予測指標のひとつに、歩行速度があります。
歩行速度が秒速0・8メートルを下回っている人は、そこから一気に症状が進んで自力で動けなくなってしまう例が多いのです。
そこで、基準を秒速1・7メートルくらいにとっておいて、病院や介護施設、または店舗や家庭でもいいですが、クラウドカメラで定点観測をする。
それで歩行が秒速1・7メートルより遅くなっている人がいれば、診療を受けていただく。
そんなしくみが考えられますね。

佐渡島
それは技術的には今すぐに可能ですね。
歩容認証という方法で人物を識別できますし、歩行速度も距離と時間から割り出せますので。
基本的な健康状態を日常生活の場でチェックできるようになるのは、たいへん有益に思えます。
暮らしに密着したデータの使い方がどんどん増えていけばいいのですが。

日本流のデータ駆動型社会を実現するには、「映像データ」がカギとなる-6

宮田
小さいことから変えていく。それは非常に重要なポイントですよ。
たとえばパン屋だって、データを活用すれば変われます。

クロワッサンって、焼きたてが断然うまいじゃないですか。
そこで厨房にクラウドカメラを設置しておいて、次のクロワッサンを焼く工程に入ったら、焼き上がって店頭に並ぶ時間を推測し情報として流す。
そうすれば買う側は、焼きたてを目指して来店できます。「たまたま焼きたてが手に入った」というのではなくて。
そうすると、価格だって変えられますよ。
焼きたてのクロワッサンは、通常のクロワッサンより値段を高くしても、買いたい人がきっといます。
データの活用がパンの付加価値を高め、ポテンシャルも上げていくわけです。

佐渡島
焼きたてのクロワッサンが確実に手に入るのはうれしいですね。
そういう喜びが増えるのだと聞くと、「データ駆動型社会」というちょっと難しそうな言葉に目鼻がついてきます。

日本流のデータ駆動型社会を実現するには、「映像データ」がカギとなる-7

宮田
別の例ですが、先日、米国でAmazon GOを体験してきました。
入店した時点で個人が特定されるので、レジで会計することなく商品を持ち帰れば、自動的に電子決済がなされる実験的な店舗のことですね。
これはAmazonという巨大な企業が自前のテクノロジーとデータを駆使してシステムがつくられているのですが、セーフィーが映像データのプラットフォームを築いていけば、それを活用して個人経営者もAmazon GOに負けないシステムを駆使できます。

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店舗の顧客データといえば、これまでもPOSデータなどはありましたが、誰が何を買っているかきめ細かくわかるわけではありませんでした。
けれど映像×データの技術を活用していけば、「いつ・どこで・誰が・何を」という購買データが正確に得られます。
するとどうなるか。日常で「あれ欲しいな」と漠と思っていたものが、いつも使う店へ行くとすでに置いてあったりするようになる。
エリアに合わせて、また時間帯によって、店がニーズに則して変化してくれるのです。

自分の住んでいる街の商店街が丸ごと、その人に向けてカスタマイズされた品揃えになって、「私だけの商店街」になってくれる。
これはセーフィーが先導する映像×データが浸透していけば、意外に早く体験できることだと思います。

日本流のデータ駆動型社会を実現するには、「映像データ」がカギとなる-9

佐渡島
私たちの提供するサービスが、日頃の小さな意思決定の手助けになれば何よりです。
一つひとつの小さい意思が積み重なることで、事業も人の働き方も、日々の暮らしも変わっていって、新しいデータ駆動型社会が実現できると考えています。

宮田
誰もが参加できるような小さい単位からものごとを進めていくのは、ひじょうに重要ですよ。
そうすることで初めて、皆で価値を共創していくことができます。
大資本が独占的に支配している石油をもとにすべてが動いていた20世紀型社会とは違って、21世紀のデータ駆動型社会は、まさにこうした個人の小さい活動を単位に動いていくのが本質なのです。

佐渡島
消費者、ユーザー、個人といった単位が主役になるというのは、日本らしいデータ駆動型社会のかたちと言えそうですね。

日本流のデータ駆動型社会を実現するには、「映像データ」がカギとなる-10

宮田
仰る通りです。
全世界的にみるとデータ駆動型社会は、すでに三極ができています。
いわゆるGAFAに代表されるメガ企業が主導する米国型、政府が強大な権限を持って全体を引っ張る中国型、個人の権利を重視しながら進むEU型です。

日本は出遅れているのが現状ですが、第四極を形成するポテンシャルはあると私は信じています。
ではどんな型があり得るかといえば、バランス感覚に優れたものになるでしょう。
既存の三極のいいところは採用しながら、すべての人がウェルビーイング、すなわちよりよい生活を得られるような、「三方よしプラス未来もよし」の社会です。

日本流のデータ駆動型社会を実現するには、「映像データ」がカギとなる-11

三極のうち最先端は中国と言っていいでしょうけれど、セーフィーが実現している事例のきめ細かさは、中国との決定的な違いを生みます。
いま中国国内には場所を問わず膨大なカメラが設置されていて、データが取得されています。
誰がそのデータを見るかといえば、一義的にはアリババやテンセントといった大企業ですが、その先はもちろん公権力へとつながっています。

そうしたトップダウンのしくみによって、中国では交通・公衆マナーなどが劇的に改善されました。
不幸を最小限にする「最小不幸社会」をつくるまでは、このやり方でいいかもしれません。
ただ、多様な幸せがここからはつくれないのが自明です。
そこでセーフィーがやっているような方法が生きてきます。
映像データから多様な価値を生み出していこうとする、それこそが日本流データ駆動型社会のかたちでしょう。

佐渡島
セーフィーのカメラが映像データを刻々と集めるのは、通信回線の有効活用にもつながります。
現状、日本の回線の使われ方というのは、下り回線はパンパンなのに上り回線はガラガラになっています。
流行りのユーチューバーの人数は限られていますが視聴者は無数にいるという状況を考えてみればわかりますよね。
つまり発信は少なく、受信は多い。アンバランスなのです。
ガラ空きの上り回線を使って各所から映像を送ってもらい、それをAIで解析して有用なデータにして、一人ひとりの小さな幸せ実現のために使う。

日本流のデータ駆動型社会を実現するには、「映像データ」がカギとなる-13

宮田
AIが自力で学習していくうえでは何らかのデータをもとにしなければならないのですが、そのデータはいまのところテキストデータが中心です。
映像データの活用はまさにこれからの段階であり、逆にいうと今後最も必要とされるのは映像データです。
これからイノベーションが起こるのは、映像データに関係する分野からでしょうね。

佐渡島
映像つまり視覚は、人が外界から情報収集するうえで最もよく使われるものです。
それゆえ自分が関わる映像を他者に使われることにはどうしても抵抗感が付きまといます。
監視されることへの恐れみたいなものは、払拭できるものでしょうか。

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宮田
基本的に次のふたつを押さえておくのが大切となりますね。
まずは、情報の閲覧権限をきちんとコントロールすること。
誰が見ているのか、そして誰には見られないのか。
閲覧権限を民主的にコントロールして、市民の信頼を得られるよう運営し続けるのが大切です。
中国では最終的に公権力がデータを閲覧し利用するのが了解事項ですが、日本では別の論理としくみをつくり上げないといけません。

また、利用目的を明確にして、データ提供がシェアドバリューにつながることもはっきり示さないといけません。
自分のデータが使われるにしても、それは社会をよくするために使われるのであって、回り回って自分にとってもいいことなんだと納得できれば、信頼感にもつながっていきます。

データ利用に同意することで、悪い芽を摘み良い結果を生む可能性を増やすコミュニティに自分も参加できて、自身の安全や安心が得られるという理解が進むならば、正体のわからぬものに怯えることもなくなると思います。

佐渡島隆平 × 宮田裕章 日本流のデータ駆動型社会を実現するには、「映像データ」がカギとなる-15

佐渡島
そうですね、セーフィーのサービスは現在も実際には、元の映像にアクセスできる人はごく限られます。
活用されているのは映像そのものではなく、処理されたコードやデータだけです。
もちろん安全性を高めていくことは、いつだって最優先の課題ではあります。

宮田
そうですね。
信頼を醸成しながら日本流のデータ駆動型社会を推し進めていければと思います。
最近では、感染拡大防止対策やテレワーク対応に使える「クラウド録画カメラレンタル特別支援パッケージ」の提供をしていらっしゃるとのこと。
心強く感じる医療施設や企業は多いはずです。

宮田さん、ありがとうございました!
クラウドカメラというプロダクトの先に見据える「データ駆動型社会」のイメージが少しでも伝われば幸いです。
セーフィーでは、映像×AIや解析技術を活用し、データ駆動型社会を先取りした実践もすでに手がけています。こうした例、今後どんどん増やしていく予定です!

著者紹介 About Writer

山内宏泰
ライター。美術、写真、文芸について造詣が深い。
著書に『写真のフクシュウ 荒木経惟の言葉』(パイインターナショナル)『写真のフクシュウ 森山大道の言葉』(パイインターナショナル)『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)など。
「見える未来文化研究所」の共同編集長。
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